「経験知」を伝える技術

「経験知」とか「暗黙の知識」とかは、確かにそこにはあるのだがラベリングしていなかったため見過ごしていた。スキルともマインドとも違うものを「最も深い知恵−ディープスマート」と名付けその獲得から移転まで順を追って説明している。肝は学ぶこと、経験すること、考えることなんだが、「ディープスマート」という概念があることを意識して行動を起こすのが最も効率のよい吸収方法なのだと思う。
p16ディープスマートはその人の直接の経験に立脚し、暗黙の知識に基づく洞察を生み出し、その人の信念と社会的影響により形づくられる強力な専門知識だ。それは数ある知恵の中で最も深い知恵である。ディープスマートは個々の情報よりノウハウに基礎を置く。複雑な相関関係を把握してシステム全体の把握に基づく専門的な判断を迅速に下し必要に応じてシステムの細部にも踏み込んで把握できる能力である。その能力は正式の教育だけでは身につかないが、計画的に育むことはできるし献身的に努力すれば、他人に移転することも再創造を促すこともできる
p43経験の分布 経験を蓄積するとは経験の分布図をつくることだ

p48練習をいちわない姿勢こそ、一般人とトップセールスマン、CEOとの違いなのだ。練習によって初めてセールスパーソンはボディーランゲージと売上の関係を理解する。どんなに文献を読み込んだところで言葉に表現できない知識は習得できない。練習とは、同じことを繰り返すことだ。しかし、ただ何も考えずにただひたすら繰り返すだけではかえって悪い癖がつく危険もある。計画的な練習、機械的に反復するだけでなく、折に触れて経験を振り返りながら意識的に課題をこなすことが必要だ。
p53脳内のレパートリーを増やす−脳科学の研究によると経験は脳の構造を変える。経験は新しい情報を脳の特定の部位に暗号化して取り込みその部位の構造を変える。将来取り出して使える記憶を脳に定着させるには間接的な経験よりも直接的な経験のほうが効果的だ。
経験に基づく複雑な知識を吸収するには新しい情報が脳のレセプター(受容体)と結合する必要がある。レセプターとはその人の持っている基本的な考え方や内容的知識、過去の経験を反映した神経構造。レセプターがないと、新しいメッセージや情報は脳の構造に取り込まれず、理解不能ないし意味不明のままになってしまう。このような脳の性質を考えると、コーチは生徒は意識的にレセプターを育てなくてはならない。
p69ディープスマートを育む上で欠かせないのは計画的な練習をする意欲だ。フィードバックを受けながら計画的に練習を行う必要がある
新しい知識を吸収するには脳内にしかるべきレセプターがなくてはならない。言い換えれば新しい経験を受け入れる心理状態にありあらかじめ十分な精神的土台を持っている必要がある。その土台がないと新しい情報はただの情報にとどまり知識に転換しない
シミュレーションを活用すれば現実世界での直接の経験を補える。シミュレーションは新しい知識を受け止めるレセプターをつくりスキルを育み特異な状況下で練習する機会を与え少ないコストで計画的に経験のレパートリーを増やすのに役立つ。それにシミュレーションなら失敗しても実際に悪い結果は生じない
リーダーに必要なのはシステム全体を理解するために幅広い経験のレパートリーを築くこと。できれば優秀なコーチの指導を受けることが望ましい
最も強力な経験の積み方は指導のもとでの経験だ
p103エキスパートは幅広い経験のレパートリーがありある状況を前にすると見覚えのあるパターンを見つけだしてそれを過去の経験と照らし合わせる。そうすることで目下の状況にぴったり合った判断を下す
エキスパートは抽象化された知識を持っており過去に遭遇したことのない状況に出くわした場合も大きなカテゴリーに属する一種と考えて結果を予測できる
直感とは迅速で効率的なパターン認識のことである
p174知識とは「正当化された真なる信念」のことだ。信念の体系はその人のディープスマートの一部である
人間は自分の個人レベル専門分野レベル組織レベル文化レベルの中核的信念を真実だと信じておりしかもそうした信念はおおむね暗黙のもので変化しにくい。それをほかの信念の体系とすり合わせるのは難しい
信念の体系はなかなか変わらない。だが自分の信念が自分だけの固定観念にすぎないとわかれば議論と相互理解への道が開ける。信念を変える最も効果的な方法は既存の信念に反する体験を実際にさせることだ
p263個別具体的な指示や経験則も学習者の頭にレセプターをつくる役に立つかもしれない。しかしでぃーぷすまーとの移転はあまり期待できない。ソクラテスメソッドなど学習者が主体的に関わるコーチング方法のほうが効果的だ
p308個人のキャリアとしてどのようにディープスマートを育めばよいか
ギャップを認める
レセプターをつくる
経験のレパートリーを設計する
ノウフー(人脈)を築く
価値を提供する
退路を断たない
準拠集団の影響力を理解する
固定観念と信念の体系を調べる
コーチを選ぶ
必要な経験のレパートリーを積む
豊かな学習機会を追求する
変身する



「経験知」を伝える技術 ディープスマートの本質 (Harvard business school press)

「経験知」を伝える技術 ディープスマートの本質 (Harvard business school press)