競争戦略論Ⅰ・Ⅱ

マイケルポーターの論文集。30年前に「five-force framework」を生み出し、今でも使われているのはやはり本質を突いているからだろう。1章競争要因が戦略を決めると2章戦略とは何かから抜粋
p33市場シェアをめぐる争いにおいては競争は競合企業という形でハッキリと現れるとは限らない。むしろ一つの業界における競争はその経済構造に根差しているのであり競争の要因は個々の業界における既存の競合企業を超えたところに存在する。買い手、供給業者、新規参入の機会を窺う企業、代替製品などは業界によってその明確さや活発さの点で差があるとはいえすべて競争参加者なのである。
p36競争要因のうち、最も強力なものが業界の収益性を決定する。戦略策定の際にもこれを最も重視しなければならない。(中略)どんな業界にもその根底には構造というものがある。つまり最も基本的な一連の経済・技術上の特性でありそれが競争要因を誕生させるのである。自社を業界の環境に適応させ、あるいは自社に有利になるようにその環境に影響を及ぼしたいと思うなら戦略担当者としてその環境を動かしているのは何なのか把握しておかねばならない。
p82戦略的ポジションは三つの異なる源泉から生まれる
第一に戦略的ポジションはその業界の製品サービスの一部分に特化することによって得られる。これは製品種類ベースのポジショニングと呼ばれるものである。なざならこのやり方は顧客セグメントではなく、製品・サービスの種類を選択することで成り立っているからである。製品種類ベースのポジショニングが経済的に成立するのは競合他社とは明確に異なる一連の活動を通じて特定の製品サービスを最もうまく生み出せる場合である
戦略的ポジショニングの源泉の二つ目は特定の顧客グループのほとんどの(あるいはすべての)ニーズを満たすやり方である。これはニーズベースのポジショニングと呼ばれるものである。これは従来からいわれている顧客セグメントのターゲティングに近いものである。このアプローチが適合するのはさまざまな異なるニーズをもつ顧客グループが存在し活動を調整することで彼らのニーズを最もよく満たせる場合である
戦略的ポジショニングの三つ目の源泉は顧客を彼らにアクセスできる方法に基づいてセグメンテーションするやり方である。ニーズの点では他の顧客と変わりはないが彼らに到達するための活動の最適な調整の仕方が他とは異なる。これはアクセスベースのポジショニングと呼ばれるものである。アクセスの手法は顧客の地理的な所在や規模で決まる。あるいはそれ以外の要素によって顧客に最適な形で到達するために他とは異なる活動が必要になる場合もある
p98この10年間でオペレーション効率は大きく向上したがそのなかでマネジャーたちはトレードオフを解消させることは良いことだという考えを取り入れてしまった。だがトレードオフが存在しなければ企業が持続的な優位を築くことはありえない。これまで以上に効率を向上させてもせいぜい現在の地位を維持できるだけということになってしまう
では、そもそも戦略とは何だろうか。トレードオフを考えればその答えの新たな側面が見えてくる。すなわち戦略とは競争上必要なトレードオフを行うことなのである。戦略の本質とは何をやらないかという選択である。トレードオフが存在しないなら何も選択する必要はなくなるし、したがって戦略も必要なくなる。その場合にはどんなによいアイデアでもすぐさま模倣されてしまうだろう。とするとやはり業績は全面的にオペレーション効率によってのみ決定されることになってしまう
p108最も効果的なポジションとはトレードオフゆえに他と両立し得ないような活動システムを伴うポジションである。戦略的ポジションが決まれば個々の活動をどう配置し統合するかを定義するトレードオフの原則も決まってくる。活動システムという観点から戦略を考えればなぜ組織構造やシステム、プロセスといった要素が戦略に固有のものでなければならないのかもいっそう明確になってくる。逆に戦略に合わせて組織を調整することで活動相互の補完性を実現し競争優位の持続に貢献するのである。
一つの示唆として戦略的ポジションは1回限りのプランニング期間だけでなく10年ないしそれ以上の視野をもたねばならないということが挙げられる。継続することにより個々の活動の改善も活動相互のフィットも進む。そうなれば組織として戦略に沿った独自の能力やスキルを構築することができるようになる。また継続性は企業としてのアイデンティティも強めてくれる。
戦略とは企業としての活動の間にフィットを生み出すことである。戦略が成功するかどうかは多数のものごとをうまくやり(少数ではいけない)しかもそれらを統合できるかどうかで決まってくる。活動がお互いにフィットしていなければ明確な戦略もありえないし競争優位もまず維持できない。そして経営は個々の機能を監督するという単純な仕事になってしまい組織の相対的な業績はオペレーション効率だけできまってしまうことになる。
p118オペレーション効率の改善も企業経営に欠かせない部分ではある。しかしそれは戦略ではない。マネジャーがこの2つを混同してしまうと多くの業界を競争による収斂に追いやってしまった競争観に逆戻りしてしまう。そんな状況は誰にとっても得にならないし、またそれは避けようと思えば避けられる事態なのである。マネジャーはオペレーション効率と戦略とをしっかりと区別しなければならない。どちらも不可欠だがそれぞれの課題は別物なのである。

競争戦略論〈1〉

競争戦略論〈1〉

競争戦略論〈2〉

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