イノベーションのジレンマ

産業界の「自然の法則」を知り、背筋が寒くなると同時に目の前の視界が急に広がったような感覚。逆に言うと視界が急に拓けて足元がスースーしている感覚を味わった書。優秀な企業がより良い(収益力の高い)市場へ向かって成功すると、下からの破壊的イノベーションによって市場自体が無くなってしまう。このジレンマは、まじめに経営すればするほど起こる可能性が高いという「じゃあどうしたらよいの?」状態。まさにジレンマ。特に7章から9章が今の自分にとても役に立った。
また読みながらハメルの「経営の未来」を思い出したが、頭の中でどうつながっているのだろう。ハメルの再読が必要だ。
目次
第一部優良企業が失敗する理由
第1章 なぜ優良企業が失敗するのか
第2章 バリューネットワークとイノベーションへの刺激
第3章 掘削機業界における破壊的イノベーション
第4章 登れるが、降りられない
第二部破壊的イノベーションの対応
第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる
第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる
第7章 新しい成長市場を見いだす
第8章 組織のできること、できないことを評価する方法
第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル
第10章 破壊的イノベーションのマネジメント−事例研究−
第11章 イノベーションのジレンマ−まとめ−

p293第11章から抜粋
本書では有能な経営陣が利益と成長を求めるうちに、最高の経営手法を使って、企業を失敗に導く場合があることを学んだ。しかし破壊的イノベーションに直面したときにうまく機能しないからといって、主流市場で企業を成功に導いてきた能力、組織構造、意思決定プロセスを捨てる必要はない。そのような企業のマネージャーは、これらの能力、文化、慣行がある条件のもとでのみ有効であることを認識していれば良い
洞察を振り返ると
第一に市場が求めるあるいは市場が吸収できる進歩のペースは、技術によって供給される進歩のペースと明らかに異なる場合がある。顧客と緊密な関係を保つことは持続的イノベーションに有効だが、破壊的イノベーションには誤ったデータの源になりかねない。現状を分析するためには軌跡グラフが有効である
第二に資源配分プロセスについて、必要な資金と人材が投入された革新案には成功の可能性があるが、その評価を下すのは企業の主流バリューネットワークで知識と直感を身につけてきたスタッフのため難しい
第三にあらゆるイノベーションの問題には、資源配分の問題と同様、市場と技術の組み合わせの問題が伴う。過去の例から見て成功する可能性の高い方法は現在の破壊的技術の特性を評価する新しい市場を開拓することである。破壊的技術は技術的な挑戦ではなくマーケティング上の挑戦ととらえる必要がある
第四に組織の能力は専門化されており特定の状況にのみ対応できるものである。これはその能力がバリューネットワークのなかで身についたものだからだ。従って組織は新技術を特定の市場に持ち込む能力はあるが技術を別のやり方で市場に持ち込むことができない。組織や個人の能力は過去に競争してきたバリューネットワークによって形成されている。破壊的技術によって生み出された新しい市場は、それぞれの次元で待った区別の能力を必要とする
第五に破壊的技術に直面したとき目標を定めて大規模な投資を行うために必要な情報は存在しないことが多い
第六につねに先駆者となる、追随者になるといった一面的な戦略をとるのは賢明でない
第七に最も大きい障壁は経営慣行である。優秀なマネージャーの多い成功している企業は、技術、ブランド名、生産能力、マネジメント経験、販売戦力、資力などに恵まれていながら、自社の収益獲得モデルに適合しないことに時間をかけるのは非常に難しい。破壊的技術は投資することが最も重要な時期にはほとんど意味を持たないため、実績ある企業の慣習的な経営知識が参入や市場移動の障壁にあることはまちがいない。この障壁はそれほど協力に浸透している

p299以降から抜粋
優良企業がたびたび失敗するのは、そのような企業を業界リーダーに押し上げた経営慣行そのものが、破壊的技術の開発を困難にし、最終的に市場を奪われる原因となるからだ。優良企業は、既存の顧客の需要に応えて製品の性能を高める持続的技術の開発を得意としている。そのような企業の経営慣行には次のような特徴がある
顧客の声に耳を傾ける
求められたものを提供する技術に積極的に投資する
利益率の向上をめざす
小さな市場より大きな市場を目標とする

しかし破壊的技術は持続的技術とはあきらかに異なる。破壊的技術は、市場の価値基準を変える。
優良企業の効果的な経営慣行が破壊的技術の開発を妨げる理由
1.企業は顧客と投資家に資源を依存している
  企業が生き残るためには顧客や投資家が必要とする製品サービス収益を提供しなければならない。このため業績のすぐれた企業には顧客が求めないアイデアは切り捨てるシステムが整備されている。その結果このような企業において顧客が求めず利益率が低い破壊的技術に十分な資源を投資することはきわめて難しい。
2.小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
3.存在しない市場は分析できない
4.組織の能力は無能力の決定的要因になる
  組織の能力はその中で働く人材の能力とは無関係であり、「プロセス」と「価値基準」によって決まる。そして人材などの資源と異なりプロセスや価値基準には柔軟性がない。そのため本来組織の能力を生み出すためのプロセスや価値基準は、状況が変わると組織の無能力の決定的要因となる。
5.技術の供給は市場の需要と等しいとはかぎらない
  技術の進歩のペースが、時として主流顧客が求める、または吸収できる性能向上のペースを上回ってしまう。

破壊的技術に直面した経営者に勧めること
1.破壊的技術の開発をそのような技術を必要とする顧客がいる組織に任せることで、プロジェクトに資源が流れるようにする
2.独立組織は小さな勝利にも前向きになれるように小規模にする
3.失敗に備える。最初からうまくいくとは考えてはならない。破壊的技術を商品化するための初期の努力は学習の機会と考える。データを収集しながら修正すればよい
4.躍進を期待してはならない。早い段階から行動し、現在の技術の特性に合った市場を見つける。それは現在の主流市場と別の場所になるだろう。主流市場にとって魅力の薄い破壊的技術の特性が新しい市場をつくり出す要因になる

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)